連載第一回目

★AVプロジェクト?!
「プロジェクト名はAVプロジェクトねっ!」
 パナセは電話口で大笑いをしている。
「なんか怪しくていいでしょ♪」
「AVプロジェクト?!」
 意味もわからず、言葉に詰まっているとパナセは続けた。
「AVはね、スペイン語で、AvanzarVida(アバンサールビーダ)前進する人生って意味の頭文字をとったの。私たち3人はもちろん、これから関わってくれる方々やお客さまにとっても、このサービスが人生を前向きに進めていけるお手伝いになるようにという願いを込めてつけたの。アダルトビデオのAVでもいいんだけどねー、私やじんわりさんではもうアダルトビデオにも出れんやろー、 わははは。」
 わははーと笑う声に、私はすっかり毒気を抜かれた。
「なるほど。これがパナセ流かあ・・・」と妙に納得もした。
瞬間、私はこれまでの自分を振り返った。
他人から見れば順調な人生を送っていた(らしい)。
でも、考えてみれば、私はずっと、引かれたレールの上を歩いて来た。自分が本当にどうしたいのかということよりも、まわりから何を期待されているかが判断基準になっていた。
結婚に失敗したのもそのことと無関係ではないだろう。
試行錯誤の中で自分自身の生き方を探し続けて、今回やっと、人生を前向きに進めるために起業を決意した。
アバンサールビーダ。前進する人生。そうか、なかなかいいかも知れないな・・・。
こうしてAVプロジェクトはスタートした。
そして、スタートからほんの2ヶ月程で、最初のサービス「マンションオーナー養成塾」が立ち上がった。
★ビジネスアイデアのスキマ
入札するまでに、1年間ぐらいは本を読みまくった。初めから不動産の本を探して読んだわけじゃなく、実際のところ、お金って何なのか?を知りたくてお金に関する本を読むうちに、不動産に出会ったという感じ。
一番面白いと思ったのは「金持ち父さん貧乏父さん」。
この本の中で私が一番共感できたのは、「私にとって一番大事な資産は時間だ」という部分。
自分が何歳まで働けるのかわからないけど、子どもが成人するまであと12年。12年働いたら、私は50歳。その時になって、やり残したことを後悔するのは嫌だ。
当時、私は会社勤めをしていたが、会社にいる9時から5時までの時間が日に日に辛くなりつつあった。仕事が嫌ということではなく、拘束されている時間を何かもっと別のことに使いたかったのだ。でもそれは、常識では許されない単なる「わがまま」だ。でも私は、わがままと言われてもいいからどうしても自分の時間が欲しかった。わがままを実現するためにはどうすればいいだろう?まずは、子どもの養育に必要な最低限の収入を確保することが必須条件だし、一番の近道だと私は考えた。
裁判所の不動産競売では、サザビーなんかとは違って、ひとつの物件につき一人1回だけ入札することができる。チャンスは1回きり。もちろん談合はできない。だから値段のつけ方が難しい。
理論としての入札価額は、入札者の中で一番高く、且つ2番目の人より1円だけ高いのが理想形だ。
私が生まれて初めて入札したワンルームマンションは、なんと58の個人や法人が入札した超人気物件である。
私が落札してから半年以上経ったが、今でも地元の不動産屋さんが寄ると「あの物件はすごかったですな~」という話になるそうだ。
それほどすごいことだったらしい。
だからといって、私に特別な才能があるわけではない。世間によくいる、いわゆる「負け犬女」である。
(負け犬女とはずいぶんな表現だが、30代独身女性の自嘲的呼称で、作家 酒井順子さんの命名である。詳細は酒井さん著書『負け犬の遠吠え』を参照されたい。)
私は不動産のことを何ひとつ知らないズブの素人だ。何も知らないから恥ずかしいとも思わず質問しまくった。ズブの素人だからこそ、不動産の常識を新鮮に感じ、競売の体験を通して新しい知識を得た。そして学んだことを世の負け犬女たちで共有するために、会社まで作ってしまった。