連載第十三回目

★天職か転職か?!
再就職して2年。微生物の仕事を通して、私は環境問題に強い関心を持つようになっていた。2003年4月、作家の栢野克己さんに勧められ、「安全で美味しい食べ物」というテーマで、日記形式のホームページに文章を書き始めた。時間が経つほど味が出る生き方がしたいという思いを込めて、「じんわり」と名乗ることにした。
一方、社運を賭けて1年以上受注活動を続けてきた公共事業の受注の結果発表が目前に迫る。最終選考の2社に残ったものの、実績がないので受注は奇跡に近い。もし受注できれば、会社は大きく躍進するだろう。しかし結局、社員1名の弱小はヤン坊・マー坊に勝てなかった。
日本の農業を変えることが私の天職だと思っていた。堆肥センターの建設が実現すれば、その第一歩になるはずだった。堆肥センターで作った堆肥で、農薬や化学肥料を使わない産地を創る。その町は唯一、頑固な社長の主義を理解してくれた自治体だ。そこでの実績を足がかりに、他の自治体にも広げるという夢はあっさり消えた。折りしも後継者である社長の息子が会社の決定権を持つことになり、別の場所で新規事業を始めた。そして、父親の会社では今後一切、営業活動をしないことに決まった。
当面の目標を失い、私は今後の身の振り方を考えるようになった。本を読み漁り、自分がしたいこと、継続してできることを探した。もう、どこかに就職するいう選択肢は私にはない。条件は今の自分のライフスタイルを変えないこと。田舎にいても、子どもがいてもできること。時間の切り売りをせずにできることを考え続けた。
幸い15年近く続けてきた株式投資で、ある程度の収入が得られるようにはなっていた。田舎だから生活費は大してかからない。株の収入は不安定だが、しばらく働かなくてもやっていけそうだ。一度フリーになってじっくり考えてみよう。
そう考えた私は2003年9月末、3年弱勤めた会社を退職した。