連載第二十四回目

★運命の出会い?
それまで、福岡県といえば明太子しか思い浮かばなかった私だが、改めて競売物件探しをしてみて驚いた。住みやすい町のようだ。
不思議なくらい交通の便が良い。どこからでも20~30分で市内中心部へ行け、仕事も買い物も食事もできる。職住接近の町だ。
地下鉄網が発達しているところは札幌とよく似ている。違うのは、ボイラー室の有無ぐらいか。札幌ではボイラーに関する知識がないことがネックだったが、福岡ならボイラーの心配はしなくていい。福岡市内なら、イザという時は駆けつけることもできる。札幌よりリスクがふたつ少ない。私はやおら乗り気になった。
ふと見た物件に目が留まった。築9年の比較的新しい物件だ。駅から遠いのが難だが、最低売却価額が148万円とは破格の安さだ。新しいのになぜこんなに安いのか?何か欠陥でもあるのだろうか?そうだとしても、競売初挑戦の私には十分だろう。
3点セットを繰返し読んでみる。6階の角部屋。高級住宅街の一画にあり、一部上場企業の社宅として借り上げられている。管理費の滞納もない。非のうちどころがないと言っても良いほどだ。不審な点が全くないことが、却って私を不安にさせた。
何か大事なポイントを見落としているのではないか?という危惧を抱きながら、うっしーに電話してみる。
「今週の642号が良さそうですけど、どう思います?」
「これはいいですね。この辺りは今、地下鉄の工事中で、もうすぐ開通するんです。ひょっとして駅の近くだったらラッキーですよ。よくこんな物件を見つけましたね。」
「じゃあ私、入札します。」
「えっ?!ホントに入札するんですか?」
「冗談だと思ってたんですか?良い物件って言ってたでしょう?」
「いやー言いましたけど…しますか?…ホントに?」
「すると言ったらするんです。」
「でも、リスクが……」
「リスクを恐れていたら何もできないでしょう?」
一向に埒があかないので現地を見に行くことにした。見て驚いた。
建設中の駅はマンションの本当にすぐ目の前なのだ。駅の入口は、もうほとんどできかけている。マンションのエントランスまでは、ほんの10メートル。雨降りでも傘がいらない距離である。
「ここなら、2軒分の資金を投入してでも落札するべきですよ。」
慎重派のうっしーが諸手を挙げて薦めている。何とか落札したい。しかし、こんなに恵まれた立地条件なら欲しがる人は多いはずだ。激しい競争になるだろう。
入札価額を決めないといけないが、いくら考えても答えが出ない。他の人より1円でも高ければいい。他の人はいくらをつけるのか?
「最後の最後は、執着心ですよ。」といううっしーのアドバイスを反芻する。チャンスは1回きりだ。
悔いの残らない値段をつけたいが、悔いの残らない値段とは果してどんな値段だろう?