連載第九回目

★着地点の見えない夜間飛行?
衝撃的な同窓会から2年。離婚した私は仕事に没頭していた。
「自分探し」をするはずだったが、何もできないまま、家と会社を往復するだけの生活。
毎日5時半の終業のベルと同時に、駅までの地下街を走り、1本も遅れることなく毎日同じ電車で帰宅する。子どもが待っているから残業は極力しない。成果を出すため始業より1時間早く出社した。
通勤電車内での読書が私にとって唯一の趣味だった。読書に疲れるとよく電車の中吊り広告を眺めて過ごした。「美肌コスメ」「ブランドバッグ」「キャリアウーマンのビジネススーツ」「転職に有利な資格」「海外旅行」などの見出しを見て自分との距離を感じた。
一体、今の私は何のために働いているんだろう?
生活のため?今は実家にいて食べるのには困っていない。子どものため?もちろん子どもを育てるために今後も収入は必要だ。でも、子どものために働くって何か変だ。じゃあ、自分のため?今の仕事はやりがいはある。しかし長い目で見て本当に自分のためになっているのかどうかは疑問だ。
ショッピングはしない。映画も観ない。飲みに行くこともないし、旅行もしない。お洒落にも縁がない。特にやりたいこともないが、とにかく自分の時間が欲しいということだけははっきりしていた。
一方、同僚の独身女性たちは身軽だ。仕事、習い事、グルメ、海外旅行。残業ももちろんするし、やりたいことにはどんどん挑戦している。見るからに充実していて内心ちょっと羨ましかった。ある日皆で一緒にランチをしていると、同僚の一人が言った。
「じんわりちゃんはいいよね。かわいい子どもがいて。」
「そりゃあまあ、子どもはかわいいけど。あなたこそ、公私ともに充実してていいね。私から見るとあなたの方が楽しそうだよ。」
「そうでもないよ。結婚したくないわけじゃないもん。本当言うと子どもも欲しい。独身は、自分のためだけに時間を使えるのはいいけど、これから先、自分はずっとひとりなのかも知れないと思うと不安になる。私の老後はどうなるんだろう?って。まるで真っ暗な夜空にダイビングするみたい。今自分が着地しようとしてる足元が全然見えない。地に足が着かない感じがして、一体私はどこに不時着するの?と思う。今の私の心境を例えて言えば、着地点の見えない夜間飛行ってとこかな。」
「へえ・・・。着地点の見えない夜間飛行ねえ・・・。」
意外だった。イキイキと充実しているように見えるのに、必ずしも心から楽しんでるわけでもないんだ。自分の将来に漠然とした不安感を持っている。だけど、さし当たって結婚の予定もないから、今しかできないことを精一杯楽しんでいるのかも知れない。
これはもしかすると、彼女だけではなくて、たくさんの独身女性に共通する思いなんだろうか。
その時は、これが起業のヒントになるとは思いもしなかった。