連載第八回目

★なんちゃって成功者?
神戸元町のレンガ造りの洒落たレストランが同窓会の会場だった。
店に入るとすでに大勢集まっていた。わくわくする。夜の外出は何年ぶりだろう。皆、どんな風に変わっているだろう?
高校卒業から13年経ち、それぞれ13年分の年を取っていた。
真面目一辺倒で、堅物で、変わり者だと思っていた担任の先生は、チョンマゲを結い、テレビにレギュラー出演する大阪の公立大学の名物助教授になっていた。(注・松浪健四郎氏ではない)
ハードロックにはまっていた薬師丸ひろ子似の学年一の美少女は、ヘビメタのバンドでCDデビューを果たしたものの、ヒット曲に恵まれないまま、30歳を過ぎた今もライブハウスでヘビメタを演奏しているという。
板前になっていよいよ自分の店を出すという人。
20歳で日本を飛び出し、今は弁理士としてオーストラリアで活躍している人。
医師と結婚していわゆる幸せな主婦になっている人。
長年フリーターをしていたが、一念発起して、今は建築資材関係の会社で営業部長になっている人。
どこからどう見ても詐欺師にしか見えない怪しい人。
阪神大震災下の長田区の工場町で、夫が勤めるゴム工場が燃え落ちるのを横目で見ながら、一家4人必死で逃げたという人・・・。
どの人も、なんとその人らしい生き方をしていることか。互いに近況を言い合って、大笑いした。そう言えば、ずいぶん長い間笑っていなかったような気がする。笑うことを思い出したら同時に涙腺も弛んだ。喜怒哀楽をいっぺんに取り戻したようだった。
ひとり一人の顔を見回した。どの人も、顔や表情にその人らしさがにじみ出ている。13年分の人生がくっきりと刻み込まれて、より一層その人らしい顔になっている。それにひきかえ私はどうだ?
自問自答しながら、皆の顔をもう一度眺めた。中にひとりどうしても思い出せない顔がある。胸の開いたセクシーな黒いドレスを着て足を斜に組んだ長身の女性。長い髪をかきあげる仕種が色っぽい。
色っぽすぎる。どこかで見たことがあるような、ないような。
隣にいた友達にそっと耳打ちした。
「ねえねえ、あれ誰?うちのクラスにあんな人いたっけ?」
「ああ、あれね、あれは○○君よ。元男子の。性転換したの。」
「へっ?」
全く、「へっ?」としか言いようがなかった。
彼はクラス一番の優等生だった。クラスでただひとり、有名国立大合格間違いなしと言われていた。でも結局大学へは行かず、今はスナックで働きながら元クラスメートの男子と暮らしているという。頭を後ろからガンガン殴られたような感じで、くらくらっとした。皆がそれぞれの人生を、その人らしく生きている。それはわかる。けど、そういうのもあり?
その時、一人の男子が近づいてきて言った。
「それにしてもじんわりちゃんは、ストレート・ウェイやねえ。」
「え?何それ?どういう意味?」
「まあ言うてみれば、『成功一直線』というこっちゃ。一流大学に現役で合格。一流企業に就職して、ボンボンと結婚して芦屋に住んでるんやろ?サクセスストーリーを地で行ってるで。」
今度は横っ面にビンタを喰らった感じだ。確かに世間体はいいかも知れないが、今の私はそんなに幸せじゃない。達成感もない。長い長い間、私の中で眠っていた何かがいきなり目を覚まして呟いた。
「人生は、自分のためにある。」
こんな大事で簡単なことになんで今まで気付かなかったんだろう?感情を押し殺し、嫌なことを嫌だと言わず、ワガママと言われるのを恐れて、いつも人から認められようと努力してきた。会社で評価される人材。人から必要とされる人間。いつも基準は他人の目。
「自分が本当にやりたいことを探そう。」
その日から、私の自分探しが始まった。