連載第二十二回目

★起業後半年で資金がなくなる
こうして起業後半年で金がなくなるんですが、まあ、考えてみたら当たり前ですね。なにせ「無料職業相談業」(=相談に乗ったふりをして、裏でその人を企業に紹介し、人材紹介手数料を貰う=民間人材銀行をモグリで実施=後ろめたくなってダメだった)ですから。実はこの「無料職業相談業」には大先輩がいます。新宿区四谷のボロアパートで約30年前から、確か今も「現代職業研究所」をやっている本多信一さんがその人。今までに「内気」や「転職」をキーワードに数十冊の本を書いているから、ご存じの人も多いでしょう。本多さんは時事通信社を30歳前後で「仕事不適応」「人嫌い」で辞め、しかし、何をヤッテ生きていったらいいかわからず、ふと考えて「自分と同じような、職業に悩む人の相談相手になろう」と「無料職業相談業」を開設。しかし、当初数年間はほとんど相談者も来社せず、それまで蓄えた数百万円を切り崩しながら、かつ、超極貧生活を維持しながら、「いつかは本を出したい」と、誰も見ない原稿の練習をせっせとやっていました。その後、流通業界紙などに売り込んで連載の仕事をゲット。かつ、中小企業診断士の資格(個人的には食えない資格だと思います)を取り、ぼちぼちと研修やセミナーの仕事で食いつなぎ、40歳を越えてから「週に3日が無料相談日。あとが稼ぐ仕事」のパターンとなり、その頃には本も何冊か出して「作家先生」の仲間入りをしていました。まあ、しかし、印税なんて大したことない=今は1万部売れればヒット=私の場合は1冊84円ですから1万部でも84万円=ですから、私が相談に行った’91年当時も貧乏な様子でした。部屋は和室の質素なもので、あちこちに原稿が散乱。後日、本多さんが自著で「いつ原稿になるかもわからなかったが、出すものと決めて毎日数十枚を書いた。そのほとんどは本にはならなかったが、のちの出版依頼があったときにはスムースに書けた。あれは無駄ではなかった」と聞きました。
これは私で言えば、本を出すなんて意識は40歳まで全くなかったですが、18歳から書いていた日記が練習になっていたんですね。
★ヤル気が全く出ない
とまあ、とにもかくにも、私の無料職業相談業は意欲を失って半年でおしまい。
’91年の2月に始め、夏を過ぎた頃には「コリャダメだ」と新宿御苑のワンルーム15万円マンション事務所兼自宅を引き払い、四谷の6畳一間・木造風呂なしアパートに転居しました。
横は中年女性と若い男性(息子じゃない)、真下はパキスタン人で隣はヤーサンぽいあばら屋。食事は貰った百貨店の券を切り売りし、それがなくなると試食コーナー巡り。銭湯も勿体ないので、2回に1回はキッチンで洗い、交通手段も金のかかる地下鉄・JRは辞めて、車も売ってバイク移動に変更。しかし、最初のヤマハ時代のノイローゼ退社で癖になったのか、またもウツ気味でヤル気が全く出ない。お金は減る一方なのに、仕事をしないんですね。何をやったらいいのか、俺はどうしたらいいのか。毎日、図書館に行って新聞を読み、歩いて新宿へ出て雑踏の中に身を置いて、都会の孤独に浸る日々。そして帰ると外見も中も絶望的なアパートで、残りの預金通帳をじっと見る・・・。暗かったですね。
★テープ起こしバイト
ちょうどその頃、一本の電話が鳴りました。相手はコンサル会社「船井総研」東京本部の花田部長。「お前、脱サラしたらしいが、どうせ食えてないだろう。俺は今度、船井が買収したビジネス社という出版社の社長になる。テープ起こしでも手伝わんか?」
実は数ヶ月前にまだ元気な頃、都内を飛び込み営業していて会ったのが花田さん。聞けば同じ福岡出身で、覚えてないですが、どうも(1)私が独立の挨拶ハガキを出していた(2)私が名もない「週刊キウイ」という雑誌にエッセイを書いていた・・・を見て、まあ、バイトなら使えるだろうと思ったらしいです。
「キウイ」はもう廃刊されてますが、毎週全国の新聞から面白い記事だけを抜粋して集め、他の情報ページと一緒に発行していたもの。読者を人脈ネットワークして各地で異業種交流会を開くという点がユニークでしたが、机上ですが私も同じ事を考えていたんですね。
だから「キウイ」を知った時はショックで、しかしこれはもうかなわんと読者に。たまたま書いた「読者投稿」を当時の池田編集長が見て「あんた何か書く?」といわれて、俺は何もないが転職歴だけは豊富だ。ならばと自分がなぜ退職したかの「ドキュメント退職」というエッセイを1年ほど書いてました。
今思えば、あれが私の作家デビューだったんです。よく言いますよね。売れるか否かはおいといて、誰でも1冊の本は書ける。それは自分の人生を書いた「自叙伝」だと。私も起業したばかりで何も実績ない。でも、恥ずかしいが自分の過去は書ける。
思い切って、挫折した就職、転職の失敗を、かなりあからさまに書いたんです。何度もノイローゼになったこと、自殺未遂したこと、婚約破棄してボロボロになったこと・・・etc。
これは今思うんですが、「何もない弱者必勝の文章戦略」なんですね。いい事も悪いことも恥ずかしいことも全部さらけ出す。まあ、サラリーマンにはなかなか難しいことですが、匿名や起業している人には使える。いつの時代も、「さらけ出した本音」は、たとえその人が無名であろうと、同じように悩める人の心を打つのだと思います。私も書いている「楽天日記」が全国で大ブームになっているのも、そういうことじゃないかな?
てまあ、そういうわけで、私は起業半年後には月20万円の「出版社テープ起こしバイト」に成り下がり。しかし、ここで私は今回の「小さな会社☆儲けのルール」を書くキッカケとなった本や人に会うことになります。ただ、本が書けたのは、さらにその10年後の去年ですがね。それまで「神の啓示」もなく、さらに悲惨な人生が待っていました。