連載第二十六回目

★大家さんデビュー?
入札書を送ったと思ったら、瞬く間に開札日が来た。午前10時にうっしーが結果を聞きに行ってくれることになっている。
11時15分。やはり駄目だったかとあきらめていた携帯が鳴る。
うっしーからだ。
「おめでとうございます!やりましたよ、落札です!」
「えっ?えっ?本当?落札ですか?」
「本当ですよ。なんと入札件数58件です!1万円差の1位!」
入札件数58は、福岡地裁では、歴代2番目ぐらいの多さらしい。
開札は、教室のような部屋で執行官が前に立って、入札書の封筒を一通ずつハサミで開封して並べていく。そして価額の低いものから順番に、ひとつひとつ読み上げていく。最低売却価額の148万円から延々続いて、490万円、500万円、502万円、ときて、最後に私の5,036,083円だったそうだ。
58人目を読み上げ終った時、場内は「おお~っ」とも「ほお~」ともつかないどよめきが上がったという。
「とにかくこんな経験は初めてです。」興奮覚めやらぬうっしーが言う。
「弥勒菩薩さんの仕業に違いない」。まぐれだとしても、こんな芸当が私にできるはずはない。
落札代金の支払いを済ませると、裁判所が登記を変更してくれた。
もうこれですっかり大家さんになるのかと思ったら甘かった。大家さんとしてデビューするまでに、まだ色々と関所がある。管理会社との契約や賃貸管理会社との交渉だ。初めての経験で戸惑うばかりだ。しかし新鮮な体験である。
まずは建物管理会社との契約だ。廊下やエレベーターの管理一切を建物全体で一括契約しているのでこれはやむを得まい。会社の対応もきちんとしていて、スムーズに契約が済んだ。
次に賃貸管理会社というのが出てきた。家賃の集金を代行してくれる会社だそうだ。その他、入居や退去の際の面倒を、一切合切引き受けてくれるという。ふーん、色々あるんだな…と思っていた矢先送られてきた契約書を見て目を疑った。驚くような大胆な内容だ。
まず、契約期間は5年間。入居者との賃貸契約が2年なのになぜ?
入居者が入る時、出る時、それぞれ家賃1か月分の手数料、家賃の集金に家賃の5%手数料と振込手数料が差し引かれる。集金の方法はといえば、銀行の自動引き落としだという。それなら集金を代行しているのは銀行ではないのか。
敷金は管理会社が預かるとあるが何のためだ?2年に1回の賃貸契約の更新料として15,000円?自動更新ではないのか?解約時はいかなる理由でも1か月分の家賃がかかる?解約条項がないよ?ということは、つまり、管理会社の仕事ぶりが悪くて解約する場合でも、違約金をこちらが払わないと解約できないという意味だ。
他の大家さんは、皆、文句も言わずに判をついているのだろうか?
うっしーが教えてくれたところによると、賃貸管理は自分でやれば良いので、必ずしも契約する必要はないという。
良い機会だ。賃貸管理は自分でやろう。そうすれば、早く一人前の大家さんになれるかも知れない。
ようやく手続きが終わって無事大家さんデビューしてまだ日も浅いうちに、私は次の物件を探し始めた。自分のやりたいことを見つけるために、1日も早くキャッシュフローを安定させなければ。