連載第五十一回目

★知人の社長に頭を下げて廻る
こうしてウツが数ヶ月続いた’98年6月、様々な会合でのアドバイスや、金が底をついてきて開き直り、今まで知り合った社長の元へ、頭を下げて廻りました。最初はラーメンチャンピオンの「博多一風堂」河原社長。ちょうどタウン誌「シティ情報ふくおか」の別冊「おいしん本」の広告募集が始まり、一風堂が毎年広告出稿していたのは知っていたので「河原さん、広告を私経由で下さい!」と直訴。それまで、交流会の「ベンチャー大学」等で知り合いではありましたが、どうも商売をするのは人間関係が崩れそうで遠慮していました。
「なんだ。お前はそういう仕事もしているのか」「はい。今までは一風堂はタウン誌直で広告出していますが、代理店の私経由でも価格は変わりません」「どこで出しても変わらないなら、構わないよ。今まで、なんで営業しなかったの?お前は俺のことをよく知ってるから、任せるよ」で、タウン誌の営業広告80万円に加え、それまでリクルート直でやっていた求人広告100万円もあっさり受注。それから、毎月、生徒募集の広告を出していた友人の日本マンパワー福岡校の中川さんを訪ね、「すまん。できれば俺にさせてくれ!他の広告代理店よりも効果を出す!」と云うと、「ああ、栢野さんは新聞広告も扱えるの?知らなかったわ」で、これも約100万円受注。これら広告代理の粗利は受注額の15~20%ですが、有り難い大型受注です。
★素直に「仕事をさせて下さい」
なぜ、こんなに簡単に受注できたのか。それは単純で、お客候補が居ても、お客と業者の関係になる、つまり、自分が格下の身分になるのが嫌で、営業も頭も下げていなかったのです。この姿勢が、営業活動・人間関係全般に出ていたんですね。
昨年の一時期、「営業は頭を下げるな」「殿様セールス」「自分に価値があるように振る舞え」「仕事はお客から来るようにせよ」みたいな理論が流行りましたが、その場限りのつきあいや、力が明らかにお客よりも上の場合はいいですが、やはり仕事をもらう以上、謙虚で素直に「仕事をさせて下さい」「ありがとうございます」という姿勢が必要だと思うんですね。凡人は。
こうして立て続けに仕事をもらった1ヶ月後、今度は以前からつきあいのあった九州一の宅配すし「ふく鮨本舗の三太郎」蔀(しとみ)社長から電話が。「栢野さん。今度TVCMやろうと思うけど・・」。<ああ、TVCMとかは電通とか大手の広告代理店の仕事だ。どこか知らないかという打診だな>と一瞬思ったら、「栢野さんに全部お願いするよ。ざっと2000万」。
「えーーーーーーーーーーーーーーー!!!なんでですか!!」「うーん、いろいろ人脈紹介とかで世話になったし。お返しよ」と。蔀社長とは数年前に知り合い、スゴイ人なんでマスコミ各社や他の起業家に紹介。かなり記事に大きく取り上げられたり、他のビジネスにも結びついたようですが、それは別にこっちが勝手に好意でやっただけで・・・。でも、蔀社長はそれを覚えていてくれて、かつ、仕事がなくて落ち込んでいる私に気を使い、発注してくれたんですね。こういう一連の幸運にも恵まれ、約半年の鬱状態は完全に脱出。’98年のお盆なんかも休みも全然取らず、福岡の町を走り回っていました。やはりビジネスマン・ウーマン・自営業の場合、精神的なスランプ脱出の一番の方法は、新たな仕事を確保することですね。そのためには、ツマラン見栄やプライドを捨てることかなと思います。