連載第七回目

★がんばったのはいいけれど・・・
当時の私は経済知識ゼロ。とにかく、「経済」というものの実体が全然わかっていなかった。投資信託だの何だの言う前にまず、経済に対する最低限の知識がないと話にならない。反省した私は、『経済入門』 という通信講座を受講することにした。
一通り学習してみて、ふたつのことが自分なりに見えて来た。
ひとつめ。経済は目には見えないが決して勝手に動いているわけではないということ。それまで私は、とっつきにくい経済用語や数字、指標などを見ただけでアレルギー反応を起こし、自分には無関係と感じていた。しかし実際はそうではない。
私たちは毎日、自分の事情で通勤したり買い物したりする。それはごく自然な行動であり、それが他の誰かに影響を与えているという意識はない。しかし現実には、ごく普通の日常生活が寄り集まって消費全体の流れが作られ、新しいトレンドとなり、ひいては日本の経済動向を決定づけているのだ。
つまり「私たち一人一人が経済の当事者」だということだ。
ふたつめ。株式会社の最終目標は「利益の追求」にあること。これ以外にはない。顧客満足も、新製品開発も、生産効率化も、全ては利益追求のための手段であって、目的ではない。
しかしそのことは、仕事の現場では、忘れられていることが多い。
その当たり前のことを理解して仕事に取り組むのと、理解せずにただ一生懸命に仕事するのとでは、出せる成果が違うことに気が付いた。
気が付いたら仕事が俄然面白くなった。自分の取り組むべき方向性は物流面でのコスト削減である。下請けいじめをせず、現場作業を楽にすると同時に環境保全に最大限配慮しながら、いかにして会社の収益向上に貢献するか。
自分で数値目標を設定して、着々と達成するようになった。すると人事評価が上がる。上司や他部署から頼りにされる。難しい仕事を任されるようになり、やりがいを感じてますます仕事が面白くなった。
しかしいつの間にか私は、自分の内部に問題を抱えるようになっていた。何でもかんでも仕事や経済と結び付けて考えるクセがついてしまったのだ。
勤務先の企業にとってどうか?経済にとっては?日本にとって如何なものか?
いつの間にか私には、『自分』がなくなっていた。
「自分はどうしたいのか?」と考えることをすっかり忘れ、忘れていることにさえ、気付かなくなっていた。
そんなある日、12年ぶりに高校の同窓会に出席することになった。
まさか、その同窓会が私にとって衝撃的な1日になろうとは夢にも思わなかった。